ニュース

ニュース

「古代クメール遺跡(カンボジア)の大規模三次元形状モデルを公開 ― 研究・保存・管理を支えるデジタルツインの構築へ ―」

筑波大学とカンボジア政府文化芸術省が共同で取り組んでいる、古代クメール遺跡の三次元ドキュメンテーションの成果を、産業技術総合研究所の3DDBビューワーを用いて公開しました。

公開したのは、7世紀初頭の古代都市「サンボー・プレイ・クック遺跡群」と、アンコール王朝最盛期の12世紀後半に築かれた地方拠点都市「バンテアイ・チュマール遺跡群」です。

従来、大規模な遺跡全体を対象とした3Dデータをインターネット上で閲覧することは容易ではありませんでした。3DDBビューワーは、点群やメッシュなど多様な形式の大規模三次元データを統合的に管理・共有できる先進的なプラットフォームです。限られた通信環境下でも高解像度のモデルを快適に閲覧できるため、従来は公開が難しかった広大な遺跡群の三次元データを、誰もが容易に利用できる形で提供することを可能にしました。

 〈サンボー・プレイ・クック遺跡群における三次元記録〉
〈サンボー・プレイ・クック遺跡群における三次元記録〉.jpgのサムネイル画像*イメージをクリックすると3DDBのサイトにアクセスできます

サンボー・プレイ・クック遺跡群は、7世紀に現在のカンボジアを中心とした地域に勃興した真臘国の王都「イーシャーナプラ」とされ、中国の『隋書』にも記された都市址です。2017年にはユネスコ世界遺産に登録されています。

 今回の3Dデータの公開では、遺跡群を代表する最大規模のヒンドゥー教寺院であるプラサート・サンボーの寺院全域を対象としています。

 400 m四方の境内には、主祠堂を中心として約20基の煉瓦造祠堂が三重の周壁内に整然と配置されています。このような7世紀に遡る複合的寺院が極めて良好な状態で残る例は、東南アジアでも稀であり、後世のアンコール・ワットに代表されるアンコール王朝寺院の源流として位置づけられています。
サンボー・プレイ・クック遺跡群の詳細はこちら→ https://www.shimoda-lab.org/spk-project/



figure2.jpgのサムネイル画像

20252026年にかけて実施した現地計測では、移動式レーザースキャナー(SLAM LiDAR)、固定式レーザースキャナー、そしてドローンおよび地上撮影による約11千枚の写真測量データを組み合わせ、寺院全域から精緻な装飾を施された建物の細部に至るまで高精度に記録しました。

各種計測機器のRTK測位データに加え、トータルステーションによる計測ネットワークを利用して複数のモデルを精確に統合し、高精度な三次元形状モデルを構築しました

密集した樹木によって現地では把握が難しかった寺院全体の空間構成も、このデジタルモデルによって俯瞰的に可視化され、主祠堂を中心として多重の周壁と規則的に配置された祠堂群から成る特徴的な寺院構成を容易に理解できるようになりました。

Pr.Sambor.pngのサムネイル画像
3Dモデルの動画はこちら→ https://youtu.be/9nqHz-G8jh0

 

〈バンテアイ・チュマール遺跡群での三次元記録〉
バンテアイ・チュマール遺跡群での三次元記録.jpg*イメージをクリックすると3DDBのサイトにアクセスできます

さらに大規模な記録対象となったのが、12世紀後半に築かれた地方拠点都市バンテアイ・チュマール遺跡群です。

この遺跡群は、王都アンコールに築かれた城塞都市アンコール・トムと対を成す重要な地方都市でありながら、これまで十分な調査や保存整備が行われてきませんでした。巨大な石造寺院の多くは現在も倒壊した状態にあり、現地では散乱した石材に埋もれて寺院全体の姿を把握することが困難な状況にあります。

本研究では、移動式LiDARによる広域計測と写真測量を組み合わせることで、中心寺院および周辺の衛星寺院群を対象とした三次元ドキュメンテーションを実施しました。

Figure4.jpgのサムネイル画像
移動式LiDARによる計測は1回約15分、計100回にわたり行われ、中央寺院から周囲に展開する衛星寺院の配置を記録しました。さらに中央寺院中核部(約80×50 m),および総延長約700 mに及ぶ回廊浮彫では、写真測量によって高精細な計測を行いました。回廊浮彫は,近年進められてきた修復工事を経て,新たに多数の歴史的場面を記録した彫刻が明らかになっています。公開データでは、再建された全ての壁体彫刻を閲覧できるものとなっています。 

最終的に統合された三次元モデルは、約26千万点の頂点情報と約48千万ポリゴンから構成されており、3DDBビューワー上で閲覧することができます。ビューワーでは多数のレイヤーによって構成されています。

レイヤー構成(データ名の末尾が計測手法を示しています)

SLAM:移動式LiDAR計測データ
・PG:写真測量データ
・TLS:固定式レーザースキャナー計測データ
・UAV:航空レーザー測量データ

〈現地調査が困難な中でのデジタル記録の意義〉02_group photo of 3D survey team.jpg

バンテアイ・チュマール遺跡群はタイ国境近くに位置しており、2025年半ば以降、両国間の紛争の影響によって現地への立ち入りが制限される状況となっています。

幸いにも現時点では遺跡そのものへの大きな被害は報告されていませんが、国境周辺の複数の文化遺産では爆撃などによる被害が確認されています。

このような状況の中で、20253月に実施した三次元ドキュメンテーションは、現地調査に代わる重要な研究基盤となるだけでなく、万が一将来的に遺跡が被災した場合には、被害以前の状態を伝える基礎資料として、修復や復旧活動への活用にも有用なものとなっています。

 〈三次元モデルのビューワーからデジタルツインのツールへ〉
今回3DDBビューワーによって公開された遺産の三次元形状モデルは、現在の形状を正確に記録し、それを広く共有することを可能としました。今後は建築学、考古学、保存修復学などの研究成果や、遺構の危険個所や挙動観測のデータを統合し、文化遺産の研究・保存・管理を支援する「デジタルツイン」へと発展させていくことを目指しています。研究者、遺跡管理者、保存技術者、そして一般の来訪者が共通の情報基盤として利用できるプラットフォームとしてさらに発展することが期待されます。

 

本事業は、筑波大学(世界遺産学学位プログラム建築遺産研究室)とカンボジア政府文化芸術省との共同研究として実施されています。また、科研費「バンテアイ・チュマール遺跡群のデジタルツイン構築及び研究と保存支援システムの研究」(24K21173)の成果の一部です。

保有する 3D データを TDV (3DDB Viewer) で公開することに関心のある方は m-gsrt-contact-ml[a]aist.go.jp までお問い合わせください。

to TOP